大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

広島高等裁判所松江支部 昭和24年(を)93号 判決

被告人

川島貞次郞

外二名

主文

本件控訴を棄却する。

理由

被告人等弁護人上原隼三提出の控訴趣意は、末尾に添付した別紙書面記載のとおりで、これに対する当裁判所の判断は、次のとおりである。

第一点について。銀行の出納係主任が他人と共謀して業務上保管にかゝる金員を擅にその他人の営業資金に流用して費消したときは、自己の物として不法に領得する意思を実現したものであるから、たとい右の流用が銀行名義を以てする貸付の形式をとつても出納係主任に金員貸付の権限が全くない以上、右の行爲は、業務上橫領罪を構成し、背任罪に問擬すべきものではない。原判決の認定した判示事実は要するに、被告人川島は、判示山陰合同銀行米子支店の現金出納係主任として現金の出納保管等の業務に従事していたもの、被告人小谷同阪倉は、いづれも興行請負業をしているものであるが、第一、被告人川島同小谷は、共謀の上、被告人川島の業務上保管にかかる前記銀行所有の現金を被告人小谷の営む興行請負業の資金として流用しようと企て、被告人川島の業務上保管する現金合計百三十七万九千円を昭和二十三年二月二十八日より同年十月二十六日迄の間前後十四回に亘り、擅に、米子市内等において、被告人小谷の前記興行資金等に流用費消し、第二、被告人川島同阪倉は、共謀の上、被告人川島の業務上保管にかかる前記銀行所有現金を被告人阪倉の営む興行請負業の資金として流用しようと企て、被告人川島の業務上保管する前記銀行所有の現金合計百二十七万円を昭和二十三年三月八日より同年十月二十五日迄の間前後十一回に亘り、擅に、米子市内等において、被告人阪倉の前記興行資金等に流用費消したというにあつて、原判決挙示の証拠を綜合すれば右の趣旨にきする原判示事実を肯認するを得るのである。而して所論(一)(イ)主張の如く、原判示金員の流用が原判示銀行名義を以てする貸付の形式をとつたことは、原審の認めていない事実であるのみならず、原判決挙示の証拠によれば、被告人川島は、判示銀行の現金出納係主任として現金の出納保管等の業務に従事していたけれども、判示銀行のため金員貸付をする権限は全くこれを有せず、かような貸付事務は同被告人の担任した事務の範囲に属しなかつたことを認め得るから、たとい、所論の如き貸付の形式をとつたとするも、前記説示の理由に照らし被告人等の本件所爲は、業務上橫領罪を構成し所論の如く背任罪或いは背任幇助罪を以て問擬すべきものではない。所論援用の判例は本件の場合に適切ではない。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例